最後に『ドブリー・クアトロ』Tハンドルについて、ご説明します。
これまでのチューニングキーの不満点は、やはり小さいが故の
チューニングするときの指への負荷、ではないでしょうか。
特にヘッドにかかるテンションが強くなるほど、キーを回す指への負担は確実に増えます。
痛みとまではいかないけれど...あの独特の不快感。
ドラマーのみならず、どんな楽器奏者も、指先の微妙なコントロールを必要とします。
指の感覚やコントロールは、奏者にとって、本来守られるべき大切なものであるはず。
演奏前の指への負担は、極力減らすに越したことはありません。
もう少し楽にテンションボルトを回せないか、という思いで
私の場合、これまでもバーの長いハイテンションドラムキーを使ってきました。
今回の『ドブリー・クアトロ』シリーズの開発にあたっても
チューニングキーのハンドルは、ある程度長いものにしたいと考えておりました。
3/8インチドライブのT型スライドハンドルは、世にたくさん出ておりますが
ハンドル長が大体どれも20㎝以上あるので
ドラムチューニングに使うには、長すぎます。
またスライドできたとしても、センターノッチが無く
ドライブがフリー状態で固定されないものも多いです。
調べたところ、国内メーカーさんで、結構なショートサイズの3/8インチTハンドルも
市販されておりましたが、どうもソケットとのクリアランスの相性の懸念や
バーが痛みを発生させる形状をしていたので、やはり自分で作るしかない、と。
従って、オリジナルのTハンドル製作にあたっては
・スライド型で、T字でもL字でも使えること
・センターノッチがあり、中央でしっかり固定できること
この3点を、絶対条件としました。
チューニングキーは指先だけで回す人、手掌全体で回す人さまざまですが
どちらのパターンでも、使用できることを目指しました。
日本人の成人の手幅と、母指球を含めた第1指の長さの平均データをベースにして
アジア人よりももう少し手の大きい、外国人にも使いやすいようなサイズ設定で
ハンドルの長さを算出しました。
製作依頼先の工具メーカー様が、スライドTハンドルに関して
元々すばらしい商品を作っておりましたので
それをそのままドラムチューニング用に転用できればと思い
寸法のみ調整して、製作していただきました。
完成品を見てみると、さすがは世界的工具メーカーで
精度が非常に高く、ソケットとTハンドルのクリアランスがかなり小さため
かっちりフィットし、ガタがゼロであることに驚きました。(これは実はすごいこと)
楕円形ハンドルのアイディアと、滑らかなメッキ仕上げは、本当に素晴らしい。
ハンドルバーのスライドもスムーズで、また、ちゃんとセンターノッチがあり
中央できちっと固定されます。
ヘッドドライブは、クロームメッキではなくリューブライト処理になっているので
メッキ剥がれで指を怪我する恐れもありません。
ソケットとTハンドルの重みも相まって、回転力が増強され
また、通常のチューニングキーよりも、バーの長さも確保されているので
テコの原理で回す力も少なくて済みます。これは楽です。
マーチングドラムなどの、かなりのハイテンションをかける
打楽器への使用に対しても、お勧めできます。
以上、長々と綴って参りましたが
これまでの構想を具現化し、思い切って生産に踏み切った次第です。
完成品が上がってきたときは、当然ながら心躍りました。
一般販売も開始しましたが、製品を売りたいということより
こんな便利なものを、まずは自分が欲しかったという。
テンションボルトを回す道具なんてものは、元々世の中に他にたくさんあるわけですので
私はチューニングキーを売っているのではなく、ボルトを回す際の
利便性や拡張性、つまり、あくまで“体験”を売っていると思っています。
そして、この素晴らしい体験を、世の多くのドラマーの方々に
味わっていただければ、私にとって至上の喜びです。