2021/07/18

Development history ③

前回ソケット形状について書きましたが
国内の工具メーカーだと、2社が二重四角のソケットを販売しています。
これらの既製品を元に、ドラム用として使うための改良及び設計を考えましたが
あらゆる使用パターンに対応するための設計が、一筋縄ではいかず困難を極めました。

言われる前に言っておきますが、これらの既製品のソケットでも
ドラムチューニングに、“一応”使用できます。
しかし、いろいろと難がありますので、実際の使用は厳しいと言えます。

どのように難があるかと申しますと、下に実際の既製品の写真をお示ししますが
まず、元々は低頭角のボルトに使うものなので、ソケットの深さ自体が浅く
6~10mmはあるドラムのテンションボルト頭角に用いると
頭角に対してソケットが浮いた状態になり、頭角全体をしっかり噛むことができません。
あとは、3/8インチソケットだと、ソケット径が太いためフープに干渉してしまいます。

浮いてる上に、思いっきりフープに当たっています

1/4インチサイズのソケットもあるので、その場合は
口径的にフープへの干渉問題は避けられるものの
ソケットの深さが足りないことと、3/8インチ工具がアダプターを介さないと使えません。
また1/4インチサイズだと、3/8インチソケットほどの強度は出せなくなります。

これらの問題をクリアし、ドラムチューニング用に使えるようにすべく
理想的な設計を考えていきました。

最も苦労したのが、ソケット部位の長さの設定。
ドラムメーカー10社以上のテンションボルトと、様々なチューニングキーを研究して
ソケットの深さは決定したものの、ソケットの外径の長さを
どこまで確保しなくてはならないか、非常に悩みました。

ひとまず考慮しなくてはならないのは、ウッドフープに使用するケース。
ウッドフープは、穴にチューニングキーを差し込まなくてはならない仕様ですので
ある程度ソケットの長さを担保しないと、フープにソケットが干渉して入りません。

次に、金属フープへの干渉です。
金属フープは大きく分けて、プレスフープとダイキャストフープに二分されますが
フープ自体の高さと、プレスのフランジ部分の形状がメーカーによってバラバラです。
3/8インチだと、ドライブ部が太いため、フープに干渉してしまうことは先述の通りですが
フープの高さが高いほど確実に干渉し、またフランジ部位にももれなく干渉します。

特に最近はGretschの302フープやPearlのファットトーンフープに代表されるような
フープ高の高いタイプが多く出回っており
またSlingerlandやLeedyなどの一部ヴィンテージドラムのフープも
現代品に比べると、かなりフープ高が高いです。
これらのフープを含めて、あらゆるタイプのフープ高に、いかに対応できるようにするか
非常に頭を悩ませました。

さらに、問題をややこしくしたのが、フープ高に連動した
テンションボルトのワッシャーの使用状況です。
ワッシャーには薄いタイプ、厚いタイプがあり
さらに2枚重ねなど、使用状況はドラマーによって様々。
同じフープを使っていたとしても、使用するワッシャーの厚さや枚数により
人によって、テンションボルトの頭角とフープとの相対的な高低差が変わってきます。

全く同じフープ、同じテンションボルトでも、ワッシャーの使用状況によって

フープとの高低差が、ここまで違います
 
もし薄いワッシャーを装着していて、さらに不運にもフープ高が高い場合
ソケット長が不十分だと、フープに干渉するリスクが高まります。
つまりは、メーカーとして『このフープなら適合します』ということが
一概に言えなくなってしまいます。

単純に、ソケット部の長さを十分に長くすれば、解決する問題ではありますが
不必要にソケット全長を長くすることは、操作性が悪くなるため
可能な限り、ソケット長は短くしたい。

最終的に、様々なメーカーのフープ高やワッシャーの厚さの使用状況を想定して
“ほとんどのケースをカバーすると思われる、必要最低限の長さ”
というものを割り出しました。

最後に、ソケット幅(内径)も、0.1ミリの違いをどうするか、悩みました。
ドラムのテンションボルトの頭角は、ボルト幅がメーカーによって、ばらつきが大きいです。
テンションボルトの頭角に対して、ソケットのがたつきを抑え
吸いつくようなフィット感を出したい反面で
このメーカーの頭角にはまらない、もしくはきつい、という状況は極力作りたくない。

折角のオリジナル製品、ソケット幅をギリギリまで小さく攻めることも考えましたが
結局は、なるべく世の中の多くのドラムに使用できる方を選択しました。

これらの熟考の結果、最終的に決まった設計がこれです。


ご覧のように、フープへの干渉も見事にクリアしています。
もっと背の高いダイキャストフープや、ウッドフープにも対応します。

頭角全体を十分に噛んでいる上に、3/8インチ径でもフープと干渉しません

実に色んなことを考えながら作っている、ということを伝えたい。
こんな開発秘話は長々とオフィシャルサイトでは語れないので
ブログという手段があって、改めて良かったな、と(笑)。

(続く)

2021/07/15

Development history ②

さて、『ドブリー・クアトロ』ソケットがただの四角ソケットだったら
特に目新しさは無かった訳ですが、今回、特殊8角形という形状で作成しております。

これは二重四角と呼ばれる、工具の世界では既存の形状(技術)であり
6角ボルトに対して、12角ソケットがあるように
四角ボルトに対して、倍の8角のソケットになっています。
しかし、特殊8角形と称している通り、通常の8角形ではなく、下記の図のように
四角が二つ交差している形状です。これにより、どんな角度からでも
四角頭角がフィットしやすくなっているわけです。



世の中のボルトは6角ボルトが主流ではありますが
自動車製造の一部では、四角ボルトというものが用いられています。


かなりの少数派に含まれるマニアックなボルトですが
こういうニッチなネジに対応するために、自動車整備用工具の業界では
4角や8角ソケットが市販されております。
“あれ?同じ四角だから、ドラムのテンションボルトにも使えるんじゃね?”
と気づいたのが、開発の発端でした。

まぁ、オタクですので、当ソケットと似たコンセプトとして
某楽器店で、台湾製12角の1/4インチソケットをドラムチューニング用として
販売していることも知っております。
実物を見たことはないですが、写真で見るからにこれはスプラインソケットで
3重四角ではなく、2重六角の12角がメインの
六角用ソケットではないか、と思っています。

8角以上にフィットしやすいかも知れないですが、多角ゆえに頭角との接地面が
極端に少なくなることに加えて、ドラムメーカーによって
テンションボルトの頭角サイズが割とばらつきが大きいため
はまらない、もしくは接地面が少なくブカブカで回せないであろうと思います。

つまりは、ドラムのテンションボルトサイズの四角頭角に対しては
接地面積の確保、将来的ななめにくさより、8角が限界であると考えます。



ちなみに、『ドブリー・クアトロ』シリーズは、私が全信頼を置いている
日本の世界的工具メーカー様に依頼し(説得し)
幾度もの協議を重ねた末に、生産をしていただけることになりました。

自動車整備や工業目的のプロの工具メーカーの設計、生産ラインで作るものですので
楽器メーカーの作るドラムチューニングキーとは、根本的な作りからして異なり
精度、品質や耐久性に関しては、群を抜いております。
これまでのドラムチューニングキーとは、いわゆるレベチであり
それが故に、プロの方々にも自信を持ってお勧めできるのです。

(続く)

2021/07/08

Development history ①

2021年も後半戦となり、世はUEFA EURO 2020トーナメント真っ只中。
ヨーロッパサッカーのレベルの高さに興奮しつつ
Wembley stadiumにそんだけ人入れるんだったら
また近々、大型ロックコンサートを再開して欲しいなと願う、今日この頃。

Doble Cuatro<ドブリー・クアトロ>ドラムチューニングキーの発表から
しばらく経ちましたが、多くの方々から反響の声をいただき、感謝を申し上げます。


なかなかトリッキーな製品ではありますが
このソケットの魅力をお伝えするべく、当ブログにて
開発の経緯を、少しずつお話できればと思います。

元々、ドラムチューニングソケットと3/8インチ工具との組み合わせは
個人的に10年ほど前よりやっておりました。
某竹トンボチューニングキーの、1/4インチソケットが既製品として存在しており
それを3/8インチ工具と合わせて、それはそれは愛用していたのです。

演奏もさることながら、ドラム作りをしていると
とにかく頻繁に、ヘッドの付け外しやチューニングを行うことが多く
スピーディーなテンションボルトの付け外しを要します。
電動ドリルは便利ですが、ドラムのボルトを締めるには向きません。
結局、いろんな工具と組み合わせて、用手で行うのが最も効率的。

工具とドラムキーとの組み合わせは、様々な場面で役立っておりましたが
そんな中で、いつか直接つなげる3/8インチサイズのドラムキーを作りたい、という思いと
『ナゲット』と名付けた基礎チューニングキーを製品化したいと、考えておりました。



3/8インチ規格にこだわる理由は、主に3つあります。

一つ目は、単純に世の中の工具は、圧倒的に3/8インチドライブのものが多いこと
既存の工具と組み合わせることにより、様々な使い方ができますが
1/4インチよりも3/8インチのほうが、その選択肢がはるかに広がります。

二つ目は、3/8インチにすることにより、ソケット径が太くなり
強度が増し、長く、安心して使うことが可能になる点
チューニングキーをハードに使ったことのある人は
四角穴がどんどん広がって回せなくなったり
割れたりした経験をお持ちの方も、多いと思います。
ある日チューニングをしていると、突然ガクッとソケット部がバカになったりする。
それがライブ本番前とかだと、非常につらい。
そういった問題を解決するために、強度は重要です。

三つ目は、ツールとしての使いやすさ
ドラムのテンションボルトくらいの径のネジに対しては
サイズ的には、本当は1/4インチサイズの工具が適しています。
しかし、1/4インチのツールは小さくて使いづらい。
そこを3/8インチ規格にすることで、ツールに“重み”“握りやすさ”が生まれ
取り回しが楽になり、またツールとしての重厚感や存在感が増します。

昨今のドラムチューニングキーも、以前より
大きく、重いもの、が主流になってきている点からもわかるように
ある程度の重量があったほうが、回しやすく使いやすい傾向があります。

ドブリー・クアトロは、よく重いと言われますが、ほんとに重いです(笑)。
これが1/4インチ規格であれば、もっと軽くできたことは間違いないでしょう。

実は、設計の段階で、Tハンドルの1/4インチサイズも全て試しています。
しかしながら、細いため、やはり指が痛くなり、また重さが無いので
遠心力も生かせないことを、改めて認識しました。

従って、3/8インチの、この重さ・大きさだからこそ、握りやすい、
取り回しやすい、ということを強調したいです。
なおかつ、重くて大きいから、紛失しにくいです。

私はドラムチューニングキーも、立派な工具だと思っています。
なので、キーホルダーをつけてぶら下げたり、しょっちゅう無くしたり
アクセサリーのような立場で扱わずに
きちんと工具として、使ってほしいと思っています。

(続く)