前回ソケット形状について書きましたが
国内の工具メーカーだと、2社が二重四角のソケットを販売しています。
これらの既製品を元に、ドラム用として使うための改良及び設計を考えましたが
あらゆる使用パターンに対応するための設計が、一筋縄ではいかず困難を極めました。
言われる前に言っておきますが、これらの既製品のソケットでも
ドラムチューニングに、“一応”使用できます。
しかし、いろいろと難がありますので、実際の使用は厳しいと言えます。
どのように難があるかと申しますと、下に実際の既製品の写真をお示ししますが
まず、元々は低頭角のボルトに使うものなので、ソケットの深さ自体が浅く
6~10mmはあるドラムのテンションボルト頭角に用いると
頭角に対してソケットが浮いた状態になり、頭角全体をしっかり噛むことができません。
あとは、3/8インチソケットだと、ソケット径が太いためフープに干渉してしまいます。
浮いてる上に、思いっきりフープに当たっています |
1/4インチサイズのソケットもあるので、その場合は
口径的にフープへの干渉問題は避けられるものの
ソケットの深さが足りないことと、3/8インチ工具がアダプターを介さないと使えません。
また1/4インチサイズだと、3/8インチソケットほどの強度は出せなくなります。
これらの問題をクリアし、ドラムチューニング用に使えるようにすべく
理想的な設計を考えていきました。
最も苦労したのが、ソケット部位の長さの設定。
ドラムメーカー10社以上のテンションボルトと、様々なチューニングキーを研究して
ソケットの深さは決定したものの、ソケットの外径の長さを
どこまで確保しなくてはならないか、非常に悩みました。
ひとまず考慮しなくてはならないのは、ウッドフープに使用するケース。
ウッドフープは、穴にチューニングキーを差し込まなくてはならない仕様ですので
ある程度ソケットの長さを担保しないと、フープにソケットが干渉して入りません。
次に、金属フープへの干渉です。
金属フープは大きく分けて、プレスフープとダイキャストフープに二分されますが
フープ自体の高さと、プレスのフランジ部分の形状がメーカーによってバラバラです。
3/8インチだと、ドライブ部が太いため、フープに干渉してしまうことは先述の通りですが
フープの高さが高いほど確実に干渉し、またフランジ部位にももれなく干渉します。
特に最近はGretschの302フープやPearlのファットトーンフープに代表されるような
フープ高の高いタイプが多く出回っており
またSlingerlandやLeedyなどの一部ヴィンテージドラムのフープも
現代品に比べると、かなりフープ高が高いです。
これらのフープを含めて、あらゆるタイプのフープ高に、いかに対応できるようにするか
非常に頭を悩ませました。
さらに、問題をややこしくしたのが、フープ高に連動した
テンションボルトのワッシャーの使用状況です。
ワッシャーには薄いタイプ、厚いタイプがあり
さらに2枚重ねなど、使用状況はドラマーによって様々。
同じフープを使っていたとしても、使用するワッシャーの厚さや枚数により
人によって、テンションボルトの頭角とフープとの相対的な高低差が変わってきます。
全く同じフープ、同じテンションボルトでも、ワッシャーの使用状況によって |
フープとの高低差が、ここまで違います |
もし薄いワッシャーを装着していて、さらに不運にもフープ高が高い場合
ソケット長が不十分だと、フープに干渉するリスクが高まります。
つまりは、メーカーとして『このフープなら適合します』ということが
一概に言えなくなってしまいます。
単純に、ソケット部の長さを十分に長くすれば、解決する問題ではありますが
不必要にソケット全長を長くすることは、操作性が悪くなるため
可能な限り、ソケット長は短くしたい。
最終的に、様々なメーカーのフープ高やワッシャーの厚さの使用状況を想定して
“ほとんどのケースをカバーすると思われる、必要最低限の長さ”
というものを割り出しました。
最後に、ソケット幅(内径)も、0.1ミリの違いをどうするか、悩みました。
ドラムのテンションボルトの頭角は、ボルト幅がメーカーによって、ばらつきが大きいです。
テンションボルトの頭角に対して、ソケットのがたつきを抑え
吸いつくようなフィット感を出したい反面で
このメーカーの頭角にはまらない、もしくはきつい、という状況は極力作りたくない。
折角のオリジナル製品、ソケット幅をギリギリまで小さく攻めることも考えましたが
結局は、なるべく世の中の多くのドラムに使用できる方を選択しました。
これらの熟考の結果、最終的に決まった設計がこれです。
ご覧のように、フープへの干渉も見事にクリアしています。
もっと背の高いダイキャストフープや、ウッドフープにも対応します。
頭角全体を十分に噛んでいる上に、3/8インチ径でもフープと干渉しません |
実に色んなことを考えながら作っている、ということを伝えたい。
こんな開発秘話は長々とオフィシャルサイトでは語れないので
ブログという手段があって、改めて良かったな、と(笑)。
(続く)